紹介記事 : 日本工業新聞 2003年6月6日紹介

「航空宇宙技術の粋」結集 他の地域や大学とも連携 3年めどに小型機
「水上飛行機」開発プロジェクト始動
 日本が世界に誇るモノづくりの技術。その技術が最も集積している地域のひとつ、東京都大田区で今、中小企業やベンチャー企業の持つ高度な技術を組み合わせて、水上飛行機を開発しようというブロジェクトが動き出した。このブロジェクトの旗振り役で、区内の中小企業と大学の研究成果との橋渡しを務める大田ビジネス創造協議会(OBK)の磯収二理事長は早くも「完成したら、飛行士養成の学校を作って、パイロットを育てたい」と青写真を描く。(松村信仁)
まず無人機から
-なぜ水上飛行機の開発なのか。
「OBKの会員に、かつて国産飛行機YS-11の開発に携わった人がいて、会員同士のなかで『自分たちで飛行機を作ってみよう』と話が進み、二月にFB(フェリーボート部会)を立ち上げたのが始まり。水上飛行機にしたのは滑走路を新たにつくる必要がないため、離島への乗り入れも簡単で、災害救助目的にも使えると思ったからだ」
「羽田空港をすぐ近くに抱え、さまざまな飛行機用部品メーカーが既に存在していること。さらにロケットの先端部の形状を整える北嶋絞製作所など、航空宇宙分野全般で活躍している技術力ある中小企業もあり、これらをうまく結びつければ決して不可能ではないと思った」
-開発プランは。
「当面はまず遠隔操作可能の無人の小型飛行機を開発。開発技術の蓄積を進めながら、向こう三年程度をめどに、二-四人乗りの訓練・連絡用の小型機の開発を進める。将来は四十-六十人乗りの中型機の開発にも挑戦したい。各段階で開発にめどがついた時点で、飛行機の販売も視野に置きたい。さらにこの飛行機を操縦できる人材を育てる専用の訓練学校も手がけたい」
-30社でスタート
-水上飛行機となると、開発への課題も多い。
「大きなところで三つあげられる。まず、現行の機体のアルミニウム合金だと塩水が付いたままでは腐食する。二つ目は、離着水性能を保つには飛行機の胴体の下部を舟のようなかたちにする必要がある。このため飛行中の抵抗が大きくなりやすい。三つ目は波立つと離着水ができなくなることだ」
「その解決策として、腐食しない複合材料の開発を進める。また機体の形状もできる限り、今の飛行機に近づける。さらに滑走する水面の消波装置の開発が実用化への絶対条件となると思う」
-大田区のほかにも、全国には中小企業の技術力の高い地域がたくさんある。地域同士の連携について。
「今のところ大田区とその周辺の中小企業を中心に三十社前後でスタートさせるが、私たちの力だけでの実用化は難しい。もっといい最先端の技術や材料を集めないといけない。OBKと神奈川県異業種グルーブ連絡会議と共同で航空・宇宙開発関連部晶調達支援プロジェクトを立ち上げた。これ以外にもモノづくりの技術のある地域や企業との連携も積極的に考えたい」
「もちろん大学や高等専門学校との運携も大事。既に東京大学大学院工学系研究科の鈴木真二教授をはじめ、東京都立航空工業高等専門学校や航空宇宙技術研究所へも技術協力のお願いをしている」
-開発には多額な資金が必要だ。
「開発費だけでも数千万-数億円に達する。当面は国や自治体の助成金を集めることになる。また飛行機の開発には大型の風洞実験やフライトシュミュレータなども必要になる。こうした装置は大手企業が持つものがほとんど。いづれは大手企業にも出資をお願いしなければと思う。