紹介記事 : 日本経済新聞 2003年6月25日紹介

復活日本の工場
進化する下請け 潜在技術で大手抜く
 中堅電機メーカー、アンデス電気(青森県八戸市)の工場が忙しい。六月の生産量は四月の十倍の二干三百台。作業員も三十人と五割増やした。作るのは空気浄化機だ。
 主な用途は病院内の感染防止。重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)の流行で突然脚光を浴び世界中から引き合いが殺到した。だが単にブームに乗っただけではない。大増産に乗り出したのも「大手を超えた製品」との自信からだ。
光触媒は国内で
安田昭夫杜長は言う。「普通の防止装置は空気中のウイルスや細菌をこす。ウチの製晶はウイルスを殺す。一台四十万円以上と値段は高いが、機能は全く異なる」。中核部品は光が当たると化学物質やウイルスを分解、死滅させる光触媒。それも、従来品と比べ十倍の効率を持つ特殊な形状の光触媒だ。素材の表面で結晶を成長させる技術を磨き上げたたまものだ。
 電子部品の下請けだったアンデス電気は一九九三年、親会社が発注元をアジアに切り替えたため三年問で売上高が半減、存亡の機に立った。同社は生き残りをかけて下請時代に培った技術を深めた。「光触媒の製造プロセスは門外不出。光媒は八戸で作り続ける」(安田社長)
 クラスターテクノロジー(大阪府東大阪市)も下請け時代の技術を深めることで短期間に飛躍した。DNA(デオキシリボ核酸)チップ基板、有機EL(エレクトロ・ルミネツセンス)ディスプレー製造装置……。数々の技術賞を受賞した世界最先端の製品群は、素材の加工技術や超精密金型の製造技術が原点だ。
 同杜は九八年、取引先の大手から「部品の納入単価を下げるか工場を中国に出してくれ」と迫られた。「海外に出る体力はない。いつまでも下請け扱いされるのも面白くない」と考えた安達稔社長は「大学の研究室と提携し技術を磨き上げた」。今や東大や京大の大学院生が次々と入杜する従業員五十人のハイテク企業だ。工場には独自開発した世界でただ一つの試験・製造装置が並ぶ。研究所と呼ぶ方が正確だ。
 下請けの密集する東大阪や東京・大田区の空洞化は著しい。企業数はそれぞれピーク時の一万杜から八千杜、九千社から六千社に。海外シフトする大手企業が発注を切り続けているからだ。しかし、逆風に負けまいと潜在技術を伸ばし大手とも対等につき合う”目覚めた下請け”が育つ。これら中小企業の群れが日本の新たな強みとなり始めた。
異業種が融合
 三井物産の子会社、カーボン・ナノテク・リサーチ・インスティチュート(東京・中央)。約二十人の研究者や技術者が東京・大田区や長野県諏訪地方など全国の町工場を歩く。
同社が開発したナノテクノロジー(超微細技術)材料を無償配布し、共同で用途開拓を進める目的だ。
 加藤誠社長は「事業化には日本の中小企業の持つ奥深い生産技術が欠かせないと気付いた」と明かす。約五十杜との共同研究が動き出した。大手も中小の底力を新たな日本のインフラと見直す。
 異業種の下請けが技術を融合し「世界で一つの製品」の開発にまで乗り出している。東大阪ではナノ、環境、宇宙の三分野で技術開発の研究会が結成された。東京・大田区の中小企業は水上飛行機の共同開発に動く。「中国に比べ日本には深く広い技術蓄積があるためだ」と東大阪商工会議所で四十年問、中小企業を研究する湖中斉氏は一言う。
 今、日本で立ち上がる新しい工場。日本の強みを生かし、新しい事業分野を開花させ始めた象徴でもある。